例えばカナダでは、コンピュータによるシミュレーション・モデルで地球環境への影響を定量的に比較分析する「ATHENATM (アシーナプロジェクト)」が進められています。

産学協同のこの事業は、天然資源の採取、資材の生産、建設、建築物の運用、運用後の廃棄という住宅のライフサイクル全般にわたって、住宅が地球環境へ及ぼす影響を調査するものです。

このアシーナプロジェクトでは、3階建てオフィスビルに続いて戸建て住宅に関しても比較研究を行い、このほどその結果を公表。オフィスビルで実証された木造建築の環境に対する優位性が一般的な住宅に関しても明瞭な差異をもつことが立証されました。

床面積2,400平方フィート(約223m2)というカナダでは一般的な大きさの戸建て住宅を取り上げ、木造・スチール造・コンクリート造という工法の違いによる
●総合的なエネルギーの使用量
●温室効果ガス
●大気汚染
●水質汚染
●資源としての総消費量
などについて紹介します。

さらに、日本国内での調査事例として木造(在来軸組工法)224戸、鉄筋コンクリート造 477戸、鉄骨プレハブ造177戸のサンプリングをもとにした、住宅構造別の炭素放出量、炭素ストック量の比較についても紹介します。




エネルギー消費量が少ないということは、温室効果ガスやその他の大気汚染物質の放出減少につながり、環境への負荷が少ないといえます。木造建築、スチール造建築、鉄筋コンクリート造建築に使用される建設資材となる資源採取、資材生産、さらに建設、資材輸送の各段階で使用する石油資源の合計を計算しました。
小屋組は3モデルとも木製トラス仕様となっているため、これを除く部分について比較すると、スチール造は木造の1.5倍、鉄筋コンクリート造は木造の2.2倍のエネルギー消費となります。
また、地球温暖化の原因とされる温室効果ガスの発生については、資材生産の過程におけるエネルギー消費に起因する二酸化炭素、一酸化炭素、窒素酸化物、メタンなど温室効果ガスの発生量を二酸化炭素の放出量に換算して、木造、スチール造、鉄筋コンクリート造の各設計方法で比較。スチール造が木造の1.23 倍、鉄筋コンクリート造が木造の1.50倍多く温室効果ガスを発生することが明らかになりました。




大気汚染に関しては、硫黄酸化物、微粒子浮遊物、一酸化炭素、窒素酸化物、揮発性有機物、フェノール類などの有害物質が、資源ライフサイクルのさまざまな段階で健康にどれだけ悪影響を及ぼすかを比較分析。結果はスチール造が木造の1.74倍、鉄筋コンクリート造が木造の 2.15倍多く大気汚染物質を発生することが明らかになりました。
また、水質汚染に関しては、水溶性固形分、芳香族、非鉄金属、金属化合物、硝酸アンモニウム、ハロゲン有機物、塩化物、シアン化物、アルミニウム、油脂、硫酸塩、硫化物、鉄分などの有害汚染物質が環境に与える影響を測定。スチール造が木造の3.47倍、鉄筋コンクリート造が木造の2.15倍多く水質汚染物質を発生することが明らかになりました。スチール造については、鉄鋼の生産過程が水質にかなり大きな悪影響を与えています。
さらに、資材の総量から比較した場合は、スチール造は木造の1.14倍、鉄筋コンクリート造は木造の1.93倍の資源を使っている計算となりました。資源保続あるいは省資源化といった観点からも、木造の有利性が実証されたといえます。なお、建設資材の生産および施工過程で出される固形廃棄物は施工方法に左右され、工業化を進めるほど少なくなると言えます。今回の戸建て住宅の場合スチール造に比べ木造が1.21倍、鉄筋コンクリート造は1.58倍という結果になりました。



次に日本における調査事例をご紹介します。

一戸の住宅を構成する各種材料が、製造時に放出する炭素量を比較(ニ酸化炭素放出量は炭素量に換算して示されることが多い)。ここでは住宅一戸の床面積を 136平方メートルとし、これに各材料の使用量、さらに各材料の炭素放出原単位をかけて全炭素量を算出しています。

建物の主要構成材料(主に構造材料)となる製材品、合板、鋼材およびコンクリートについて炭素放出量の合計を見ると、鉄骨プレハブ造は木造の2.9倍、鉄筋コンクリート造は4.2倍で、木造住宅は鉄筋コンクリート造、鉄骨プレハブ造に比べてきわめて小さい値となります。ここでも、木造住宅建設が環境への負荷が少ないことが数値で示されています。

また、木材を住宅構成部材に用いると、その住宅が使用されている期間、木材が成育時に大気中から取り込んだ炭素が住宅の中に貯蔵される(ここでは炭素ストックと表現)ことになります。

1990年3月における日本国内の森林蓄積量は3,137,580×103立方メートルとなり、これを炭素ストック量に換算すると、784,395×103tonとなります。この値に対して、住宅の中にストックされている炭素量は約18%を占めることになり、それは国内の都市には全森林の18%にもおよぶもうひとつの森林が存在していることになります。この住宅の炭素ストック量のうち、木造住宅による分は全体の91%を占め、木造住宅の炭素ストックとしての価値を物語っています。

そして、長く持続的にその建築物が存在できれば、炭素ストック量は確実に大きくなっていくと言う事です。
 

Courcil of Forest Industries Canada 資料より転載