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住宅の性能と火の用心

 
世界遺産にもなった、岐阜県白川郷にて、年一回の一斉放水の模様。肌寒い中、舞い上がる水柱が美しい。
今でも、日に4回の「火の番廻り」と呼ばれる防火当番が、組ごとに決められているとの事。素敵な民意です。はい。


日本の町並みが窯業系コンクリートサイディングに覆われた、画一的な町並みになってしまったのは いつからだろう。

煉瓦に似せたモノや、木柄のサイディングまであるが 綺麗なのは最初だけで、10年もすると 見るも無惨な姿になってしまう。この辺が脆弱なデザインや短命の住宅を造ってしまったのかもしれない。

そのサイディングの温床となったのが、防火と言う言葉の捉え方から。

そもそも防火と言う考え方は 別に変な考え方でも無いし、同じ様な防火地区は米国を初め、世界いたる所にある。でも何故か日本だけが違った方向に向かった様な気がするのは私だけだろうか。それは世界の『防火地区』と言われる地域を見て やはり感慨深くなってしまうのだ。

戦前の日本の家屋は『かや葺き』『ひはだ葺き』『こけら葺き』など、植物性材料で葺いた屋根が大半を占めていた。もちろん、その様な経済状況にあった事は間違いないのだが、外壁にも『下見板』『桧皮』『焼き杉板』などがあり、もちろん土壁などは、今でも大変優れた外壁材料だとも思っている。これらの屋根材や外壁材料などは、日本の建築デザインにおいて大きなファンクションを持っていたと言える。


かし戦後、火事による脅威から、木造に対する過剰な排除運動は、ほとんど全国に広がり戦前までの日本の町並み景観を、容赦なく壊してきた。その一端を担ったのが、政府の推奨したコンクリート集合住宅である。


確かに、茅葺きの屋根は、煙と火の粉を撒き散らして走る汽車の路線や、薪を使った炊事や入浴では、煙突からの火の粉で火事になった事例も多かった事も事実。その後、茅葺きの上に鉄板を覆う工法や、鉄板を用いた瓦棒葺き・石綿成型瓦などが不燃材として、広く復旧する事となった。

ただし火災統計をみる限り、この22条区域の設定により延焼が起きにくくなったかどうかの検証は出来ない。むしろ先に22条区域の設定をする事が、防火を促進する様な観念に理解されていった様だ。

22 条区域(法22 条)

屋根の不燃化等によって延焼を抑えるため、特定行政庁(市町村に建築主事のいる市町村長、いない場合は都道府県知事)が指定した区域のことをいいます。

建築物については、通常の火災を想定した火の粉による火災の発生を防止するため屋根を不燃材等で葺かなければなりません。 また、木造建築物等については、延焼のおそれのある部分の外壁を準防火構造(土塗り壁等)とする必要があります。




日本人の暖房と言えば『いろり』に代表される局所暖房。これはこれで、趣がありますよね。


また、その区域に無くても大型建築は常に、隣地境界線から『1階にあっては3m・2階に置いては5mの範囲』について、法律上『延焼の恐れがある範囲』と定められ、そのまま無条件に木材等の有機系材料の使用は禁止された。

もちろん開口部もその規制を受ける事になる。その結果 下見貼りなど木材の外壁は姿を消していったのである。これらの伝統的外壁材に代わって木造モルタル塗り外壁・金属サイディング外壁・石綿系外壁が主流となり、何故だか風情とは逆の方向に、街がデザインされて行った様に感じる。

行政当局や学者グループは、屋根・外壁に不燃材料が復及した事実を見て、市街地の不燃化が進んだと 大いに喜んだと言う。もちろん、それらを使いこなすには歴史が無いのだから、今でも試行錯誤な事は否めない。

さて皆様も覚えが無いだろうか?昔から『マッチ一本火事の元』なんて夜回り。

私も子供会で廻った記憶がある。もちろん火事には気をつける事が一番だ。またその夜回りによって、確実に意識には『火の用心』は徹底された事だろう。地域の消防団などは、世界に先駆ける素晴らしい集団と言えると思う。

ただ、それと同時に『ボヤはあっても大火にはならない』と言う、間違った観念も発達しなかっただろうか。『火の用心』を徹底して、それでも火事になった場合は、運命として諦める以外に無いといった考えは、日本人の防火思想に多いのだそうだ。



=防火区画を持つ建物概要図=
ひとつの区画から火が回るのを
遅らせる事を目的とします。

それを裏付ける様に、世界の火災統計を見ると、儒教国である韓国と日本の出火件数は 欧米に比べ著しく低い。

国により火災統計の取り方が同じとは思えないので、単純比較は出来ないが、それでも、人口比率による1万人当たりの出火率などは、日本が5件であるのに対し、アメリカ112件・カナダ31件と、それぞれ6倍〜22倍の高さになっている。

しかし・・これが一旦、火事になってしまった場合の死者及び損害額になると、この関係は見事に逆転してしまう。データとして、火災1000件あたりの死者は、日本31人に対し、アメリカ人・カナダ人で、1/15となってしまう損害額は日本が1件当たり250万円に対し、アメリカ では62万円

データが古く(
1982年です・・すいません)今に換算すると5倍以上 日本の損害額が大きい事になる。一度火が出ると、日本人の死亡率は極めて高く、損害額も大きくなると言う事実。家と言うモノを、家族を守る器と考えた場合、これは他人事と言ってられそうに無い。

日本は、火災が発生しない様に『火の用心』について最大の関心が払われた結果、出火件数は極めて低くなっているが、出火後の防火対策や避難対策については、社会的な対策や、個人の意識が欧米に比べ、かなり劣っていると言えそう。

住宅が大きくなり、エネルギーの使用量が大きくなれば、一般に火災発生の可能性は増大する。しかしヒト昔前と比べ、エネルギー消費の形が開放型燃焼器具から、閉鎖型や電力などに変化してきた。
それは悪い事では無いが、その変化が火災危険性の変化でもあり、通常の生活の中では火災は発生しない様になりつつある。火災は人間の注意の対象では無く、出火は予想できない所からの出火に変化して来たと言う事と言える。その現状、もはや『火の用心』では済まなくなってきていると言う事を認識しなくてはいけない。

それでは どうすれば良いか?ファイアーコンパートメントと言う考え方がある。直訳すると『防火区画』となるが、街と言う単位の前に、個人の所有する器(住宅)内においても、単純に出た火を広がらせない様な仕組みや、火事の際、発生した煙で生命を害さない様なモノで構成して行けば、最低限逃げ延びるだけの時間は稼げよう。そして初期消火が可能であれば 家財や家族の負担損失も、最小限で留める事が出来る。



 
 木造2×4建築 3階建て実物台火災実験より
軸組と枠組み実物大2棟を本当に燃やすのです(笑)

まず、火の通り道を安易に提供しない事(壁体内に火を回らせなくする)その上でファイアーストップ等、更なる『防火区画』を、壁と言う火の通り道に機能として持たせる事が安心への近道。

それだけで、例えば3階建ての木造軸組住宅が10分かからず延焼したのに対し、同じ大きさの防火区画を持った建物は2時間以上違ってくる
(3階建て実物大実験より)最悪 出火に気づくのが遅れても 十分逃げられるだけの時間は稼げると言うことだ。

もちろん初期消火も難しい話では無くなって来る。そんな小さな変化で家族の運命は180度換わって来ると言う事だろう。安易な壁体内通気は 考え所だと思われる。

これらの事は、何も価格の高い防火建材を使うと言う事では無く、最初のPLANの段階や、構造でのちょっとした気遣いで対処が可能。コストバリューを考えても、採用しなければイケナイ考え方だと思う。



レッドウッドで着飾ったガレージ。ウエスタンレッドシーダー等で外壁を仕上げると、時と共にグレーがかって、とても素敵だったりするのですが・・私だけ?(汗)

そう言えば、住宅ストック率の高い米国では、中古住宅を買う際、パブリック空間に付いているドアは純木製のの方が価値が上がると聞いた事がある。オープンプランニングなのに何故?と思われる方も多いと思われるが、火を使ったり、家族が集まる空間は普通、ドア等で区画してある。その区画を純木のドアで区切る事により、防火区画としてオープンプランに繋がりが生まれるのだ。
※純木製ドアに対し、フラッシュ(扉中部が空洞のモノ)ドアはコンパートメントとして扱われない。

我が国では、防火と言うと鋼鉄製扉が思い浮かばれるが、実は35o厚を越える純木の扉は、そう簡単に燃えないのである。また意味無く毛嫌いされるグラスウールなども、火災には強い。健康住宅=グラスウールは使いませんって言うのは単なる売り文句。正しい使い方を学びたいモノである。

地震・雷・火事・親父・・何にしても、避けられるリスクなら避けた方が良いと思う。大切な家族を守ってくれる大切な器なのだから。 


参考書籍:『アメリカの家.日本の家』 戸谷英世著 井上出版



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